家事のA面とB面

コロナ禍で考える「家づくり」

緊急事態宣言下のGW中も、2年目になると家と近くの公園の往復だけで満足している自分がいましたが、それよりも、私たちの家族で気が重かったのは、育休中だった妻がGWあけに仕事に復帰することでした。次男が生まれる前は、長男を保育園に預け、夫婦それぞれ働き、家事を分担しながらよくせめぎ合っていたので、その記憶がフラッシュバックしてのものでした。その時はバタバタでしたが、最近は良い感じの家事の分担を見つけることができていました。基本的には妻がメインの家事である料理や掃除、洗濯をし、私はサブ的な子供の送迎や、晩ご飯の洗い物か子供をお風呂にいれる事、あとは、ゴミ出しと犬の散歩、畑や植栽の水やりなど。この中の植栽の水やりや犬の散歩は、家事では無く趣味だ。というご意見もあるかもしれませんが。。。私はこうした家事を「B面の家事」と呼んでいます。主にお父さんがよくしているであろう補助的な家事のことです。

 

屋上に住んでいるワイヤーフォックステリアのエッフェル。
エッフェルが来てから屋上が息抜きの場所となっています。

 

以前より自身の経験を踏まえ、お父さんの家事目線で考える設計上の配慮などは、打合せの段階でお伝えさせていただいていました。例えば、料理の片付けや料理をよくするお父さんの為に、日本の標準としているキッチン高さ850mmだと腰に負担がかかるので、作業台の高さを少し高くしたりです。これは、以前鶴橋のリノベーションの奥さんからあった意向で、850mmは腰に負担がかかるということで、900mmを採用しました。「とのまビル」では妻と私で試行して、間をとって875mmにしたことで使いやすくなった点などをお伝えしています。

コロナ禍で家で過ごす機会が増えたことで、新しく分かったことがありました。それは動線についてです。いつも設計上配慮しているのは、「A面の家事」動線を短くすることです。洗濯室と干す場所と収納する場所が近くにあること、キッチンの作業動線などは、毎日の事なので短いに越したことはないと思ってその点はいつも心掛けているのですが、「とのまビル」においては、その点に配慮したが為に、「B面の家事」動線はとても長いことになりました。屋上の景色と風通しを気に入ってしまった犬のエッフェルにも原因がありますが、犬の散歩の為に、朝起きて3階から屋上(6階)に迎えにいきます。犬の散歩が終わって屋上に戻り、屋上菜園の水やり、4階の水やり、3階の水やり、玄関の水やり、各階のゴミ出しと、山の中で生活しているかのように上ったり下りたりと非常に長いみちのりを歩きます。しかし、昨年からのコロナ禍を過ごす中では、この長い動線を歩くことが、良い運動となり、職住の気分転換や健康の維持という利点につながっていました。家の中でもエッフェルが来るまではめったに上がらなかった屋上が、今や息抜きの場になったりと、冗長的な動線が、季節の変化や家の個性を感じる場所になっています。 

本来家事とは、こうしたA面、B面問わず気持ちよく日々を過ごせるように、家族みんなで家の事を整えていくことなのだと思いますが、設計者としては、単に動線を長くするのではなくて、その先に行ってみたくなる場所や、使い方を想起させるような余白のある場所づくりに、そこに向かうための動線においても長く感じさせないための建築的工夫を行い、機能的なA面動線と、冗長的ながらも情緒的なB面動線を作ることで、「家事」の後押しをして、家を使い込んでいただきたいと思っています。

 

3階テラスの植木の水やりは今や長男のお手伝い担当。
継続してやってもらいたいところです。

 

最近小学校にあがった長男の日々のお手伝いで、3階のテラスの水やりをお願いしているのですが、つい先日もその植栽にたくさんの花が咲いていて、子供も喜び妻がその花を花瓶にさしていました。B面の家事の一部は息子に引き継がれ、新たに私の分担が増えそうですが、これからもビルを上ったり下りたりしながら、共働きでの家事のかたちを考えていこうと思います。

つづく。

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