Q & Aの続きです。
ここでは、これまでご質問を受けた中で、特にハッとさせられた質問について回答したいと思います。
Q11.作風の違いがあるのはなぜですか?
「とのま=~と~の間(ま)」という事務所名にも表明しています通り、私の設計の特徴は、関係を形にする事に重きを置いています。この関係とは、「クライアントの生活」と「その土地の風土」の間に生まれるものです。例えば、生活の中にある家具や生活雑貨のテイストや、器の好みや食生活、アウトドアとインドアの生活スタイルの違いはどうかなどなど、何が家の中心となるかで自ずと建築の特徴が生まれますし、敷地の特性についても、郊外や都市部の違い、その土地から何が見えるか、周囲の町並み・プライバシーの状況を見て、主な生活の場(LDK)を何階に位置づけるか、窓をどの位置に開くかなど、建築を形づくる条件が異なってきます。こうした考えを基に、直接要望などのお話をお聞きした上で、一から建築の全体像を考え始めますので、建築毎に異なる印象があるのだと思います。
その中でも強いて共通点を挙げるとすると2つの点があります。1つは、かつてのコルビュジェやアールト、イームズなどのモダニズム建築の思想というものが根底にあります。というのは、「モダン=今、現在」を語源とする「モダニズム」は、その時代の現在を乗り越えようとした運動の名称ですが、その意味には現在を乗り越えた先の未来というニュアンスも含まれていると思っています。特にコルビュジェのサヴォア邸やイームズの自邸には、その時代の暮らし方が今の時代においても瑞々しく伝わってくるような普遍さを持っています。又、モダニズムは海外の思想ではなくコルビュジェの元修行した前川國男や坂倉準三はじめ、アントニン・レーモンド、吉村順三、関西においては西澤文隆、安藤忠雄と現在の日本建築にも脈々と引き継がれています。和風住宅である「八田家住宅」では伝統的建造物群保存地区で外観上の修景基準があったにせよ、古典的和風建築に縛られない、現在の「モダン」を意識して作りました。そもそも家づくりは、夫婦が中心となって家族や子供の未来を見据え建てるもので、時代にどのような変化があったとしても、子供達の世代において発見や瑞々しさがあるものが良いと考えています。そういう意味で、当時のモダニズム建築の少し先に「今」を位置づけ、普遍的で大らかな住宅建築が作れればと考えています。
左:Villa Savoye (http://www.fondationlecorbusier.fr/より)
右:Eames House (https://latimesblogs.latimes.com/より)
そして、もう1つは、環境に対してです。先ほどの子供の世代までという点につながりますが、長期的視点においては快適であることが最も重要と思っています。また大学の恩師でサスティナブル建築の第一人者である建築家・難波和彦(代表作:箱の家・MUJI HOUSE)の教えもあって特に注意している点が、採光と換気です(断熱設計はQ10参照)。採光というのは、直射日光がダイレクトに入らないように屋根または庇をしっかりと出して遮る事です。深い軒によって夏の直射日光を防ぐ事ができれば窓を大きく開けたとしても室温変化が安定し、格段に空調効率が高まります(外壁が汚れないので美観維持にもつながります)。そして、コロナにおいても重要となってくる換気については、適切な位置に窓を設け、暖かい空気が高い位置に上っていく等の空気の流れを設計し、窓の大きさや位置を決定します。後は、心象的なところですが、室内にいると窓が大きい方が開放的で単純に気持ちの快適さが高まります。印象的な風景を切り取った窓辺で食事をしたり、家族で過ごす時間は他の場所では味わえない代え難いものです。私はステイホーム中の不安な時期に、こうした快適さの中で過ごすことの喜びを身を以て体験しました。以上のような考えもあって、外観の意匠としては、屋根や庇の深さや開放的な開口部を、大切な要素として設計しています。
2022/11/07