住み手と作り手の需給ギャップ
さて唐突ですが、これから新しい住まいを検討されている皆様、どのように情報を収集されていますでしょうか?
以前は、インテリア雑誌や関西で放送されている住人十色というテレビ番組を見ての問い合わせが多くを占めていましたが、コロナ禍以降はSNSの影響もあってほとんどがHPやインスタグラムを見てからの人に代わってきています。
実際にお会いして話を聞くと、色々としたいイメージはあるのですがどのように実現すれば良いかわからず、住宅雑誌などで指南されているハウスメーカーや工務店の住宅を展示場に行っては見たものの、私たちが考える住まいのイメージとは何か異なると言われる方が多くいました。
今やスマホやSNSで情報が身近になった分、深いところまで情報を辿る事ができますが、その好きなイメージを実際に目に見る事ができて相談できるところが少ないということもあって、当事務所にお問い合わせいただき、「とのまビル」を内覧しに来られる方が増えています。
こうした住宅の情報収集の仕方をとっても、作る供給側と住み手の需要側とのギャップが、コロナ禍以降顕在化してきた事だと思います。こうした需給ギャップは、住宅産業全体の問題となっている工事価格の上昇にも影響を及ぼしています。
例えば大手ハウスメーカーの住宅は成長モデルで組織を大きくしてきた結果、システムで作られるにもかかわらず、多くの経費が加算され高額化していますし、またその設計や工事組織は、数を合理的に建てる必要があるため設計や工事の期間が細かく管理されることになり、デザイン的な要望への対応がされにくい状況にあるみたいです。その他工務店などの住宅会社でも大手の価格の上昇に合わせて市場価格が引き上げられており、物価高の影響もありますが、成長時代に築かれた作り手側都合のロジックや組織のあり方が、住宅を高額化している一因になっていると言えます。
街の開発においても同様で、成長時代に建てる事をビジネスモデルとしたコンサルや建設会社が、地域性や場所性とは無関係に同じようなビルを建て続け、更に均質化した街並みへと変貌させています。そして、需給ギャップの行き着く先は、富裕層の投資対象で実際には住む人がいないタワーマンションが、都心の住宅の平均価格を押し上げ、一部の日本人しか都心に住めないという虚構のような状況へと向かっています。
話を戻すと、やはりこうした古くて大きな住宅産業に根ざしたフレームの中では、一つの家族が住む家を建てるのには過大すぎるのではないかと感じてしまいます。昔は地域に根ざした職人を中心に地場産材を用いて家が作られていました。今、私が考えるのはまさにこうしたその土地らしい住まいづくりであり、地域の意欲的な工務店さんと連携し、そこに設計を中心とした職人のネットワークを加えて構成させた限定的な作り手の供給体制を整えることによって、設計プロセスや工事価格の透明性を図りながらも、その土地の風土を受け入れ住み手の需要に応えられる家づくりの実践を模索したいと考えています。
2025/02/07